薬剤性パーキンソン症候群

パーキンソン病は、無動、固縮、振戦、姿勢反射障害、歩行障害などを主訴とする代表的な脳神経変性疾患です、
パーキンソン病様の症状を呈する疾患をパーキンソン症候群と呼び、多系統萎縮症や進行性核上性麻痺などの脳変性疾患や、正常圧水頭症、脳梗塞や脳炎の後遺症、脳腫瘍、マンガン中毒など、様々な原因で生じます。
薬剤の副作用に因っても生じることが知られており、抗精神病薬はその代表薬剤です。
パーキンソン病は、中脳黒質のメラニン含有細胞が変性し脱落し、線条体(被殻、尾状核)へ投射する神経線維が障害される事が原因とされています、
投射する神経線維からは、神経伝達物質としてドーパミンが放出されますが、パーキンソン病では、このドーパミンの放出が減少します。
つまり、ドーパミンが枯渇するのがパーキンソン病の主因とも言えます。
抗精神病薬は、ドーパミン遮断作用に因って作用を発揮します。
ドーパミンを遮断する為、パーキンソン症候群を生じやすくなります。
抗精神病薬以外にも、消化管蠕動促進薬であるナウゼリン®(ドンペリドン)やプリンペラン®(メトクロプラミド)、胃酸分泌抑制薬であるガスター®(ファモチジン)やザンタック®(ラニチジン)などの抗ヒスタミンH2受容体阻害剤、ネオーラル®やサンディミュン®(シクロスポリン)、リューマトレックス®(メトトレキセート)などの免疫抑制薬、インターフェロンα、アミオダロン、一部の抗生物質、炭酸リチウムでも生じることが知られています。

抗精神病薬によっても、薬剤性パーキンソン症候群の発現頻度や程度は異なります。
1950年代に市販されたウィンタミン®やコントミン®(クロルプロマジン)をはじめとするフェノチアジン系抗精神病薬は、統合失調症の陽性症状対して有効であり、現在でも使用される薬剤です。
セレネース®(ハロペリドール)などのブチロフェノン系と比較すると、ドーパミン遮断作用が弱く、また、セロトニン受容体作用がドーパミン放出に作用する為、比較的副作用が少ないとされています。
フェノチアジン系の中でも、フルデカシン®やフルメジン(フルフェナジン)、トリラホン®やピーゼットシー®(ペルフェナジン)、などのピペラジン系は、ドーパミン遮断作用が強力で、薬剤性パーキンソン症候群を生じやすく、メピオジン®(チオリダジン)は抗コリン作用が強い為、生じにくいとされています。
ビチロフェノン系抗精神病薬は、フェノチアジン系とともに、頻用されてきた薬剤ですが、高力価精神病薬とも言われ、少量で抗幻覚効果を発揮します。
また、セロトニン受容体遮断作用も強いとされます。
つまりは、ドーパミン遮断作用が強い訳ですが、それとともに、やはり、薬剤性パーキンソニズム含め、副作用である錐体外路症状の発現も増加します。
フェノチアジン系もビチロフェノン系も、統合失調症のドーパミン過剰仮説に基づいた薬剤で、定型抗精神病薬と呼ばれますが、1990年代に入ってからは、ドーパミンD2受容体との解離係数が高く、セロトニン受容体遮断作用が強化された非定型抗精神病薬が登場し、臨床における中心薬剤が変化しました。
この非定型抗精神病薬は、パーキンソニズムを含めた錐体外路症系の副作用を低減させる機序によって、セロトニン遮断作用を併せ持つセロトニン・ドーパミン遮断薬(SDAserotonin-dopamin antagonist)、複数の受容体に作用する多元受容体作用抗精神病薬(MARTAmulti-acting receptor targeted antipsychotics)、ドーパミンD2受容体部分作動薬(DSSdopamine system stabilizer)の3つに分類されます。
セロトニン・ドーパミン遮断薬(SDA)は、セロトニン遮断作用から黒質線条体のドーパミン遮断を緩和すると考えられ、本邦では、リスパダール®(リスペリドン)、ルーラン®(ペロスピロン)、ブロナンセリン®(ロナセン)が処方可能です。
多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)は、セロトニン、ドーパミン以外にもコリン、ヒスタミン、アドレナリン等の受容体にも作用します。
本邦では、セロクエル®(クエチナピン)、ジプレキサ®(オランザピン)、クロザリル®(クロザピン)の3剤が処方可能です。
ドーパミンD2受容体部分作動薬(DSS)は、本邦では2006年に市販されたエビリファイ®(アリピラゾール)が処方可能です。
神経伝達物質が受容体の活性を超え過剰にある場合は拮抗薬として作用し、神経伝達物質が不足している場合は、作動薬として作用するといった、調整機能を有す薬剤です。
そのため、パーキンソニズムを含めた錐体外路系の副作用発現は低率ですが、鎮静効果は弱めになります。
ベンザミド系の誘導体は、抗精神病作用以外にも、抗鬱作用を有し、制吐剤、潰瘍治療薬、消化管蠕動運動改善薬などとしても使用されます。
ドグマチール®(スルピリド)は、精神科だけでなく内科など臨床現場で良く使用されますが、代表的な薬剤性パーキンソン症候群の原因薬剤です。
グラマリール®(チアプリド)は、抗精神病作用を有す薬剤であり、また、脳梗塞後の易興奮性や攻撃性の抑制目的に使用されたり、高齢者や認知症患者のせん妄や徘徊に使用されたり、パーキンソン病で生じたジスキネジアに対して使用される場合が有ります。
グラマリール®(チアプリド)もまた、薬剤性パーキンソニズムの原因となりますので、特に高齢者に使用することが多い薬剤でもあり、用量の調整に注意を要します。
制吐剤であるナウゼリン®(ドンペリドン)やプリンペラン®(メトクロプラミド)は、常用量でパーキンソニズムを来すことは、まず考えられませんが、併用薬や代謝機能にも因るため、小児や高齢者に使用する場合は、やはり注意が必要です。
三環系や四環系抗うつ薬、セロトニン再取り込阻害剤(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬(SNRI)も、パーキンソニズム、振戦、アカシジアなどの錐体外路系副作用を生じることが有りますが、抗精神病薬と比較すると、頻度は少なくなります。
これは、抗うつ薬は、間接的にドーパミンを抑制する可能性もありますが、基本的にセロトニンを作用させる方向で働くからです。
また、抗コリンやノルアドレナリン、ドーパミン作用などを併せ持つため、副作用出現が少ない可能性があります。

症状


パーキンソン病と比較すると、薬剤性パーキンソン症候群の場合は、左右差を持って進行して行きますが、薬剤性の場合は、多くは左右均等に生じます。
パーキンソン病の場合は、緩徐に進行いたしますが、薬剤性の場合は、比較的急速に進行し、場合によっては、日単位で進行します。
また、寡黙、固縮、歩行障害が強く生じ、動作時や姿勢時の細かな振戦が目立ち、パーキンソン病で特徴的とされる安静時振戦は少ないとされます。
診断は、パーキンソン症候群を呈する可能性のある疾患を否定し、服薬開始から発症までの経過から、原因薬剤を推測します。
疑わしい薬剤を減量または中断するか、代替薬に変更し、症状が改善するか観察します。
発症までの期間は、個体差、年齢、投与量、併用薬などによって差が生じ得ます。
日々の注意深い観察が、早期の発見につながります。
高齢者例では、基礎疾患にパーキンソン症候群を呈す疾患が存在し、薬剤によって顕在化する場合も有ります。

治療


原因薬剤の中止が原則ですが、何らかの理由により中断できない場合は、抗コリン薬や抗ヒスタミン薬、シンメトレル®(アマンタジン)などを併用する事も有ります。
しかし、高齢者の場合は、これらの併用が、更なる副作用を呼び込むことも多く、症状が収束される可能性もあります。
認知機能障害や尿閉を来す場合も多く、難渋致します。
多くの場合は、より副作用出現頻度の低い非定型抗精神病薬に変更して対応いたします。
原因薬剤が中断された場合、一般的には、数週間から3カ月程度で症状が改善致します。
ドーパミン作動薬(パーキンソン病治療薬)は、一般的には使用いたしませんが、重症例や悪性症候群を発症した場合は、考慮致します。

非定型抗精神病薬は、今までの定型抗精神病薬と比較すると、薬剤性パーキンソニズムを含む錐体外路性の副作用が少なくなっておりますが、全く発症し無い訳ではないのと、その他の副作用発現に注意が必要です。
例えばですが、多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)では、体重増加や高血糖の副作用が多く、ドーパミンD2受容体部分作動薬(DSS)では無顆粒球症や心筋炎の副作用報告が有ります。